ストラテジーのエグゼクティブ・チェアマン、マイケル・セイラー氏と、ブロックストリームのアダム・バックCEOが、ビットコイン改善提案「BIP-110」への反対姿勢を改めて鮮明にした。
BIP-110は、ビットコインのネットワーク上で行われる通貨以外の取引を制限するため、期間限定のフォークを実施しようという提案だ。
狙いは、非代替性トークン(NFT)に似た「オーディナルズ」のインスクリプションや、その他の任意データがネットワークを埋め尽くすのを防ぐことにある。ビットコイン本来の用途である、個人同士が直接送金できる電子現金システムを守ろうというわけだ。
だが、その“大掃除”がビットコインを真っ二つに割りかねない。
「スパムより危険なものが110個ある」
セイラー氏とバック氏は、オーディナルズを使った活動そのものには批判的だ。
それでも両氏は、フォークによって取引を制限することは、ビットコインの信用に利益以上の損害を与えかねないと警戒している。
セイラー氏は土曜日、Xへの投稿でこう痛烈に皮肉った。
「ビットコインにとって、スパムより危険なものは110個ある」
Source: Michael Saylor
さらに同氏は、BIP-110が導入されれば、現在は正当と認められ、手数料も支払われている通常の取引まで無効扱いされる可能性があると指摘した。
つまり、迷惑データを追い出すためのルール変更が、これまで有効だった取引を突然“違反”に変えてしまう恐れがあるのだ。
「ブロックサイズ戦争」以来の大論争
BIP-110をめぐる騒動は、ビットコイン開発者コミュニティーにおける近年有数のプロトコル論争に発展している。
思い起こされるのが、2015年から2017年にかけて繰り広げられた「ブロックサイズ戦争」だ。
当時は、ビットコインの処理能力を高めるためにブロックサイズの上限を引き上げるべきか、それともチェーン分裂の危険を避けるべきかをめぐり、参加者が激しく対立した。
BIP-110は、匿名のビットコイン開発者「デイソン・オーム」氏が提案し、マイニングプール「オーシャン」の創設者ルーク・ダッシュジュニア氏が支持している。
公式のBIP文書では、BIP-110は「データ削減のための期間限定ソフトフォーク」と位置づけられており、記事掲載時点ではまだ草案段階にある。
支持率わずか1%、実現は絶望的か
もっとも、BIP-110が実際に発動する可能性は、現時点では極めて低い。
提案を有効化するには、一定のビットコインブロック期間において、ブロックを検証するノードの55%が支持を表明しなければならない。
ところが、ブロック高95万5584から95万7599までの第475期間で、BIP-110への支持を示したブロックは、わずか1%にとどまった。
過半数どころか、足元にも及んでいない。
しかも、この激論が起きている最中、肝心のオーディナルズの利用は過去最低水準に近づいている。
直近1カ月にビットコインのブロックチェーンへ記録されたオーディナルズは、1日当たり1万件未満。2023年8月のピーク時には1日40万件を超えていたため、現在は最盛期の40分の1以下まで落ち込んだ計算になる。
“火事”がほぼ鎮火しているのに、建物そのものを改築しようとしている――反対派の目には、そう映っているのかもしれない。
Change in daily Ordinals inscriptions since December 2022. Source: Dune Analytics「他人を取り締まるための運動だ」
バック氏は、BIP-110を技術面だけでなく、思想面からも厳しく批判している。
同氏はこの提案を、「他人を取り締まるための運動」と表現した。
ビットコインが分散型である以上、「自分たちの考えを他人に押しつけることはできない」はずだというのだ。
誰の許可も必要とせず、検閲にも抵抗できる通貨――。そんなビットコインのサイファーパンク精神と、特定の取引をネットワークの総意によって締め出すBIP-110は、根本的に相容れないと主張している。
推進派「オーディナルズは深刻な脅威」
一方、ダッシュジュニア氏をはじめとするBIP-110の推進派は、オーディナルズによるブロックチェーンの肥大化を「ネットワークに対する深刻な脅威」とみなしている。
放置すればビットコインが本来の送金用途で使いにくくなるとして、早急な対策が必要だと訴えている。
推進派はまた、懸念されているようなチェーン分裂は起きないと説明する。
BIP-110による制限は恒久的なものではなく、原則として1年間の期間限定だ。そのため、手数料を支払う取引が長期にわたって無効化され続けることもないという。
問題は、「迷惑行為」を誰が、どの基準で決めるのかという点にある。
オーディナルズを排除するために取引の自由を制限すれば、次は別の用途も排除されるかもしれない。セイラー氏やバック氏が恐れているのは、目の前のスパム以上に、その“前例”がビットコインに残ることなのだ。


